にいがた健活講座「健康寿命を延ばす糖尿病の治療と予防」
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)血液・内分泌・代謝内科
曽根博仁教授
そね・ひろひと 筑波大学医学群卒。同大臨床医学系教授などを経て2012年より現職。専門は糖尿病・内分泌代謝内科学。日本内科学会評議員、日本糖尿病学会評議員、日本糖尿病合併症学会理事、日本糖尿病妊娠学会副理事長、厚生労働省薬事・食品衛生審議会部会長などを務める。
発症に遺伝や加齢、生活習慣が影響
いきいき健やかに暮らすためのヒントを探る「にいがた健活講座」が11月20日、新潟日報メディアシップ(新潟市中央区)で開かれました。新潟大学大学院医歯学総合研究科の曽根博仁教授が、参加者から事前に寄せられた質問に答える形で糖尿病のメカニズムや予防のポイントなどを解説しました。
糖尿病は、血液中を流れるブドウ糖(グルコース)が増えてしまう病気。食事をすると血液中に糖が入ってきますが、膵臓(すいぞう)から出るホルモン・インスリンが血糖値(血中グルコース濃度)を一定の範囲におさめます。しかし、膵臓機能の低下で十分なインスリンが作られない「インスリン分泌量低下」やインスリンの効き目が低下する「インスリン抵抗性」になると、インスリン作用(効果)不足になり、糖尿病を発症。長く続くと合併症が出てきます。
インスリン分泌量の低下は、遺伝背景(体質)や加齢、インスリン抵抗性は生活習慣の影響が比較的強く、患者さんごとに影響度の割合は異なります。遺伝背景の割合が大きければ、いくら食事や運動で気を付けても、若い頃から糖尿病になる方もおられます。特に日本人を含む東アジア人は、やせていて生活習慣に注意していても、加齢とともに糖尿病になるケースが多い。生活習慣が原因と言うイメージがありますが、必ずしもそれだけではありません。
合併症予防、早期発見が鍵
健康寿命を短くする病気として、心臓病や脳卒中、腎不全などがありますが、それらの多くは糖尿病の合併症でもあります。したがって糖尿病対策は健康寿命延伸策になります。早く発見し、すぐ治療を始め、治療を続ければ合併症は防げます。
自覚症状として、喉が渇いて水分を大量に取る、尿の量の増加、疲れやすいなどが知られていますが、これらの症状が糖尿病のために見られたらかなり進行した状態です。早期は無症状。早期発見には、健康診断の採血で血糖値や、平均血糖値レベル「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」を検査する以外に方法はありません。
治療の柱は食事と運動、薬
治療は食事と運動と薬の3本柱で進めます。食事や運動を十分に行っても効果が足りない場合、薬を少しずつ追加します。薬物療法を始めても食事・運動療法などは継続していきます。
糖尿病だからといって食べてはいけない食品はありませんが、清涼飲料水や甘いお菓子などは糖尿病のあるなしに関わらず控えめに。肥満のある人は体重を3~5%減らす。低炭水化物にこだわるよりも、主食や野菜からの食物繊維摂取量を増やします。果物とお酒は、適量であれば毎日取ってOK。塩分は控えてください。
運動も重要です。1日30分以上の早歩きと1日おきの筋トレを行いましょう。
糖尿病は治らないと言われてきましたが、糖尿病でない状態に戻る人もいます。少なくとも血糖降下薬なしで3カ月間、HbA1c6・5%未満が維持されている状態を、いったん治癒している「寛解」と定義。糖尿病になって1年以内で、薬を使わず食事・運動療法で済んでいる程度の早期で、5%以上体重が減った人に見られました。合併症が起きなければ健康寿命が縮まらないので、糖尿病でない人と変わりません。
現代の医学では、早期発見、治療が継続できれば、糖尿病は「怖い」病気ではありません。寛解もあります。糖尿病への差別や偏見などがなくなり、治療しやすい社会になってほしいです。
実践講座「クイズで学ぶ食事療法」
実践講座では、済生会新潟病院栄養科長の治田麻理子さんが、糖尿病の食事療法についてクイズ形式で話しました。「運動したからおやつを食べていいかと聞かれますが、原則禁止」とした上で、「もし食べるなら午前中。成分表示をチェックし、1日の理想エネルギー量を超えないなど、注意しながら程よく楽しんで」などとアドバイスしました。
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