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  みんなの健康を科学する

47 分前
読了時間: 5分

(2026/11/6)

 

 このたびご縁があり、寄稿の機会をいただきました。現在は新潟を離れ、米国ボストンで公衆衛生学を学んでいます。今回は、私がなぜこの道を選んだのか、そして新潟の医療にどのように貢献したいと考えているのかをお話ししたいと思います。

  

           






                医師 ボストン大学公衆衛生学修士課程 飯田 聖 

 

                                      

   予防って難しい

 

 日本の寿命は世界トップクラスを長く維持していて、それは素晴らしいことです。しかし長生きすることと健康に暮らすことは同じではありません。医学部在学中の限られた臨床実習でも、病気によってこれまで通りの日常生活を送れなくなった方にたくさん出会いました。病気の中には防ぐことが難しいものも多くありますが、一方で、適切な予防によって発症や重症化のリスクを減らせるものもあります。こうした経験を通じて、本当に大事なのは、元気に自立した生活を過ごすことができる長さ(健康寿命)なのではないか、そして健康寿命を長くするには、そもそも病気にならずに健康でいる時間を増やすこと、つまり予防が大事なのではないかと思い至りました。

 ですが、将来の病気を予防するために現在の生活習慣を変えるのはとても難しいです。私自身、運動した方がいいと分かっていても、忙しい時に運動する時間をつくるのは難しく、ましてや新潟のように、冬には雪が吹き荒れるような地域では、なおさら外に出て運動しようという気がなくなってしまいます。食事にしても、野菜や果物が健康に良いと分かっていても値段を見て買うのを控えてしまいます。

 健康になる方法は分かっているのに、その選択ができない。このような障壁がどうして生じているのか、解消する方法はないのかを模索する中で、公衆衛生学という学問を知り、深く学んでみたいと思い大学院に進学しました。

 


    健康を問う


米国ボストン大学公衆衛生大学院の校舎前
米国ボストン大学公衆衛生大学院の校舎前

 現在、私はアメリカにあるボストン大学の公衆衛生学修士課程に在籍しています。公衆衛生学は、一つの健康問題を、医学だけでなく、統計学、経済学、法律、政策など、さまざまな視点から考える学問です。例えば、運動不足という問題には、個人の意思や生活習慣だけでなく、コミュニティ(家族や仲の良い人々、職場の人々が運動するか)、環境(街に運動施設が十分にあるか、外で運動できる気候か)、政策(歩道整備に自治体がどれくらい資金を使っているか)など多くの原因が関わっています。複雑な健康問題を、分野横断的に、さまざまな角度とレイヤーで考えられるようになるのが公衆衛生学の魅力です。

 これらの幅広い公衆衛生学の分野の中から、私は疫学を専攻しています。疫学はどのような人が病気になりやすいのか、何が病気の原因となるのかなどを、集団の中で科学的に調べる学問です。特に、データを使って、ある要因が病気の発症に本当に影響を与えているのかを、できるだけ正確に明らかにする研究方法(因果推論)を学んでいます。

 このような公衆衛生学・疫学の授業を受けつつ、研究室に通い、身体活動に関する研究に携わっています。アメリカの60万人規模のデータを活用でき、その規模の大きさにワクワクしながら研究に取り組んでいます。

 大学院では、文字通り世界的に活躍する研究者の方々から教えを受けています。そのような方々から指導していただく中で意識するようになったこと、それが「研究を通して何を明らかにし、その結果をどのようにして科学、そして社会に役立てるのか」ということです。例えば、今行っている身体活動の研究では、1日に何歩くらい歩けば健康によいのか、週に数日でもよいのか、収入や地理的条件で関連は変わるのかなど、自分の経験や人々の生活パターンをイメージしながら、日常生活に直接関わるような問いに取り組むことを意識しています。大学院での学び、そして研究を通して、世界にどんなメッセージを発信できるのか、そのメッセージは人々が健康になるためにどのように役に立つのかを強く意識するようになりました。


   

   米国での学びを新潟へ


 大学院で印象に残っている教授の言葉があります。

「疫学とは、限られた資源の中で、問いに対して最大限妥当かつ正確な答えを出すことを通して人々の健康を改善するための学問である」

 この考え方は、新潟の医療にも通じるものがあります。医療に携わる人材や予算が限られる中で県民の健康を守るためには、どのような健康課題に優先的に取り組むべきか、どうしたら効率よく健康課題の改善につながるのか、科学的な根拠に基づいて考えることが重要です。特に広い県土に多くの市町村が点在する新潟県では、地域ごとの健康課題に応じた対策が求められます。

 その判断を科学的に支える重要な役割を担うのが、疫学です。例えば、新潟県では現在、高血圧の予防に力を入れています。こうした健康課題に取り組む際には、まず、どの年代に高血圧が多いのか、食生活や運動習慣、医療機関への受診状況などとどのような関連があるのかを、新潟県の健康データから調べます。そして、得られた知見を基に、新潟県全体、また県内の地域別で優先すべき対策を検討し、実施した取り組みが実際に住民の健康改善につながったのかを検証します。このように地域の健康課題を把握し、科学的な根拠に基づいて対策を考えることが、限られた医療資源を有効に活用するために重要だと考えています。

 私は医師として目の前の患者さんと向き合うことはもちろんですが、公衆衛生学や疫学を通じて、まだ病気になっていない人々の健康を守ることにも貢献したいと考えています。まだまだ学修中の身ですが、大学院で学んだ公衆衛生学・疫学の知見、人とのつながりを活かして、新潟県で生活習慣病の予防に取り組んでいきたいと思います。


メジャーリーグを観戦する飯田さん
メジャーリーグを観戦する飯田さん

 

 いいだ・たかし 佐渡市出身。2025年、新潟大学医学部卒。2025年4月から初期臨床研修医として新潟県柏崎総合医療センター勤務。同年9月、渡米、ボストン大学公衆衛生学修士課程を開始。

 


 次回は、柏崎総合医療センターで初期臨床研修医として勤務され、私と同じく米国で公衆衛生学を学ばれた、尊敬する先輩の一人である酒巻摩周(さかまき・ましゅう)先生を紹介します。酒巻先生はジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生学修士課程を修了されています。


協力:株式会社メディレボ







 
 
 

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