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メディカルケアからヘルスケアへ -虫の目・鳥の目・魚の目

  • 3 日前
  • 読了時間: 5分

(2026/8/7)

 病院管理の仕事の合間に、救急外来や訪問診療を担当し、民生委員の集まりにも顔を出す中で医療福祉についての多くの方の声を聞いてきました。その経験から浮かび上がってきた課題を「虫の目」「鳥の目」「魚の目」の三つの視点で考えてみます。 

 



JA新潟厚生連糸魚川総合病院

病院長 山岸 文範

      





  患者さんを見る虫の目


 まずは「虫の目」です。目の前の一人の患者さんの歩みを見つめる視点です。独居の高齢者が、体調が悪くても病院に行けないことがあります。バス停は遠く、電動車を置く場所もない。タクシーを使えば高額で、来るまでに時間もかかる。そうして我慢しているうちに症状が悪化、自宅で倒れて翌日以降に家族に発見される。病院に運ばれた時には、熱中症や脱水、急性腎不全、心不全、感染症などが重なり、認知症もあるため経過を十分に聞き取れない―。「もともとの病気は何だったのかな」と考えながら、探るように治療が始まります。専門医が多い病院でも、病気が複雑に重なった高齢者を誰が中心になって診るのか、すぐには決まりにくい場合もあります。

 ようやく回復しても、入院中に筋力が落ち、以前のように暮らすことが難しくなる(高齢者が10日入院すると7年分の骨格筋が減ると言われています)。こうなると訪問看護や介護サービスを検討しても、自宅退院が難しいことが少なくありません。都会に住む子どもは、この時になって初めて親の生活の厳しさを知ります。しかし仕事を休んで介護を担う決断は簡単ではありません(ビジネスケアラーとも言われ大きな社会的損失の一つです)。結局、地域の福祉サービスに頼ることになりますが、地方では施設職員も不足しており、受け入れ先が決まるまでさらに時間がかかります。

 


   地域を見渡す鳥の目


 次に「鳥の目」です。地域全体を制度も含めて高いところから見る視点です。これまでの地域医療は、病気を診断し、治療し、命を守る「メディカルケア」を中心に発展してきました。しかし、人口減少と高齢化が進むこれからは、病気を治すだけでは十分ではありません。治療後に住み慣れた家や地域で暮らし続けられるよう、医療、介護、福祉、住まい、生活支援を一体で考える「ヘルスケア」が必要です。


 国は2040年に向けて地域医療構想の見直しを進めています。これは単なる病床削減や病院再編ではなく、地域の人口構造や医療ニーズの変化に合わせて、必要な医療・介護の流れをつくる取り組みです。

 特にこれから増えるのは、医療と介護の両方を必要とする85歳以上の高齢者です。一方で、それを支える現役世代は減っていきます。そのため、すべての病院が同じことをするのではなく、地域の中で役割を明確にする必要があります。急な病気を治す急性期病院(2040年には半減すると予測)だけでなく、回復を支え、退院を助け、在宅生活へ橋渡しする包括期病院(急性期とは反対に倍増すると予測)がますます重要になります。

 退院後にお世話になる福祉分野でも社会福祉法の改正が進んでいます。相談支援、介護サービス、人材確保、施設や事業所の連携を、地域の実情に合わせて進めやすくする方向です。これは、施設がそれぞれ単独で頑張る時代から、地域全体で人材やサービスを組み合わせて支える時代へ移ることを意味します(社会福祉連携推進法人など)。

 一方で、現場の課題は厳しいものです。介護や福祉の人材は今後さらに不足します。利用者の状態は複雑になり、施設の経営も不安定になる恐れがあります。だからこそ、ICTの活用、職員の給与や働きやすさの改善、施設同士の連携、訪問系サービスの強化を早い段階から地域で話し合う必要があります。

 


   時代の流れを読む魚の目

 

 最後に「魚の目」です。時代の流れを読む視点です。医療や福祉の人材が減っているのは、一つの地域だけの問題ではなく、日本全体の人口減少という止めることの困難な大きな流れの中で起きています。この変化を「病院が減る」「サービスが縮む」と受け身で見るだけでは、安心して暮らせる地域は守れません。

 大切なのは、必要な時に適切な医療を受け、退院後は地域に支えられ、最期まで自分らしく暮らすための仕組みを、今からつくることです。そのためには、かかりつけ医を持つこと、地域包括支援センターや介護サービスの役割を知ること、家族と人生会議を始めることが大切です。さらに、住民自身が見守りや支え合いに参加することが地域の力になります。

 「メディカルケアからヘルスケアへ」とは、医療や福祉を病院や施設の中だけで完結させず、暮らしの中で支える考え方への転換です。医師を含む病院スタッフが福祉施設・訪問看護・介護事業所・行政と連携し、なにより市民が同じ課題を共有して地域に合った支え合いの仕組みを育てていくこと。それが、これからも安心して年を重ねられる地域をつくる道だと思います。

 

山岸先生の趣味は天体写真の撮影。「宇宙を見る目」も鋭い?
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【略歴】やまぎし・ふみのり 1986年、富山医科薬科大学(現富山大学)卒業。2005年、富山大学消化器・腫瘍・総合外科准教授、09年、厚生連糸魚川総合病院副院長、21年から同病院長。


 次回は新潟県福祉保健部所属の医師・看護職員確保対策課の神田健史先生です。研修医教育、医師確保活動中で、以前には富山、金沢、山形、秋田、東北など各大学の医学生へのプレゼンなどを一緒にした仲です。新潟県の臨床研修医確保の原動力となっている先生です。

協力:株式会社メディレボ







 
 
 

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