
耳鼻咽喉科というと中耳炎、アレルギー性鼻炎、めまい、慢性副鼻腔炎、扁桃炎といったところが代表的な疾患と思われます。これらが多いのは事実ですが、われわれが担当する頭頸部領域(外耳、中耳、鼻腔、口腔、咽頭、喉頭、頸部、甲状腺などの総称)の悪性腫瘍(がん)の存在はあまり知られていません。
また、頭頸部領域は聴覚(聞こえ)、平衡覚(バランス)、嗅覚(におい)、味覚、嚥下、呼吸、発声といった、人が人らしく生きていくために必要な機能が集中しています。よって、耳鼻咽喉科疾患の治療は治癒と機能や感覚の温存を両立することに心を砕く必要があります。
日本歯科大学新潟生命歯学部耳鼻咽喉科学教授
佐藤雄一郎
人工声帯を用いたリハビリを多職種で
私が耳鼻咽喉科を専攻した理由は、頭頸部悪性腫瘍の治療が治癒とともに機能温存や再生が必要であることに魅力を感じたから、この専門分野で自分は医師として人の役にたてると自然に考えられたからです。
私のライフワークのひとつに、進行喉頭癌などで喉頭全摘(声のもとになる声帯を切除する手術)を受けた方々が、より良い声を取り戻すためのリハビリテーションがあります。
これは、人工声帯を用いたシャント発声を中心としたリハビリを、医師、言語聴覚士、看護師のチーム医療で考えるというものです。セミナーを全国各地で始めて今年は11年目、まだまだ夢の途中ですが少しずつ手応えを感じています。
医療の安全と質向上のために

医療は多くの要因がうまく絡んで首尾よくいくもの、とても複雑なプロセスを踏む必要があります。
数年前まで勤めていた新潟県立がんセンターのころから、「患者さんも医療者も起こってほしくないこと」をどうしたら未然に予防できるかを考えていました。
その時にご縁があって名古屋大医療安全管理部が企画していた、明日の医療の質向上をリードする医師養成プログラムASUISHI(アスイシ)で医療安全と質管理の勉強をする機会を得ました。
標準的な医療安全の手法に世界最高水準とされるトヨタの質管理手法を導入するというコンセプトに衝撃を受け、今でも専門領域の診療を続けながら、アスイシズムを忘れないように多くの仲間と「患者さんの安全」と「医療全体の安全と質向上」を目的に活動を続けていこうと考えています。
馴染みのありそうな耳鼻咽喉科のなかで知られていない病気の一部や、これまた知られていないであろう医療界の安全活動について個人的な経験をお伝えしてみました。
(2024.2. 7掲載)

がんセンターから異動した時にスタッフの皆さんからいただいたもの。3Dプリンター製で細部までよく出来ており、今でも見るたびにあの時の仲間を思い出し、感謝です。
さとう・ゆういちろう
1963年生まれ。昭和大学医学部医学科卒。新潟市民病院、新潟大学医学部附属病院、癌研究会附属病院頭頸科、新潟県立中央病院などで勤務。県立がんセンター新潟病院頭頸部外科部長を経て、2021年4月から日本歯科大学新潟生命歯学部耳鼻咽喉科学教授。
次回は佐藤先生の高校同期で、県立がんセンター新潟病院時代の仲間であり、今でも新潟市医師会で一緒に仕事をしているという竹之内辰也先生(県立がんセンター新潟病院副院長)を予定しています。
協力:株式会社メディレボ
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