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トイレトレーラー配備を


 令和6年1月1日に発災した能登半島地震では、道路状況が極めて悪化したため、ヒト・モノの出し入れが大きく遅延しました。全壊、半壊の家屋数が著しいために、避難者数が著しく増加、持続しました。また、(たとえ病院であっても)ライフライン(水、電気、など)が途絶したため、医療はもちろん、生活に多大な影響がでました。さらに通信手段も損壊が広範囲で甚大なため、情報量不足が長期化してしまいました。程度の差こそあれ、遅延や生活への影響は過去の災害でも経験したものですが、積み重なった結果や地理的条件も加わって、復興までの長期化が懸念されています。


村上総合病院下越ブロック統括院長

林 達彦



                                       

 

断水広範 仮設トイレ不足も

 内閣府の情報では、4月2日現在で、石川県内の避難所数は372カ所、避難者数は7484人に上ります。ライフライン、特に水道の被害による断水が持続しており、断水戸数は輪島市約1800、珠洲市約4250、能登町約580、内灘町約70もあります(国土交通省情報4月2日現在)。

 村上総合病院DMATは、1月4-7日、輪島市1月26-30日、珠洲市において活動を行いましたが、救援活動のなかの極めて大きな問題の一つが、断水に伴う水洗トイレの使用不能問題です。被災者の健康に直結する災害時のトイレ問題は、生活、衛生環境の悪化から災害関連死に直結する危険性がありますし、なにより人権に関わる大きな問題だと考えます。

 「仮設トイレ」が使えるのではと思われる方も多いと思うのですが、実際、東日本大震災の場合、仮設トイレが被災地の避難所に行き渡るまでに要した日数は、「3日以内」と回答した自治体はわずか34%にとどまり、「1カ月以上」と回答した自治体が14%もあり、最も日数を要した自治体は65日でした(名古屋大学エコトピア科学研究所アンケート調査)。道路状況を考えると、能登半島地震ではさらに遅れることが懸念されます。また仮設トイレは水洗ではないものがほとんどで、和式のものもあり、決して気持ちよく使えるわけではなく、あくまで「仮設」であることは言うまでもありません。

 1月5日夜、市立輪島病院に、一般社団法人・助けあいジャパンが中心になって進める「災害派遣トイレネットワークプロジェクト・みんな元気になるトイレ」による派遣で2台のトイレトレーラーが届きました。助け合いジャパン事務局の矢野さんによると、市立輪島病院は、能登半島に22台・28カ所派遣(※復旧により移設含む)において、唯一、優先順位を繰り上げた施設。80以上の要請に対し22台のトイレトレーラーを順に派遣調整していましたが、「医師・看護師がおむつで用をたし、患者・避難者で人があふれ、衛生環境の悪化、医療崩壊寸前」との連絡を受け、君津市・高知市の2台を派遣したとのことでした。


 

輪島市で使った個室は快適

 私も使用させていただいた写真の千葉県君津市のタイプは、1台のトレーラーに四つの個室が載ります。個室スペースは案外ゆったりしていて快適。使用後にペダルを踏んで水を流します。脇に小さなシャワーがついていて、流し足りないところを流せます。手を洗うシンクや鏡もついています。照明とポンプに使う電気は、車体上部の太陽光パネルによる太陽光発電で充電可能なバッテリーを電源としています。夜間も明るく、安心して使用できます。トイレトレーラーの給水タンクには約400リットル以上の水が入り、汚水タンクがいっぱいになるまでに約1250回の使用が可能といいます。設置場所の状況により異なりますが、汚物はまとめてバキュームで吸い上げるか、下水道に落とすなどの方法をとるとのことです。能登半島地震においても、給水チームの即時立ち上げ、補水先開拓から給水車確保、巡回ルート策定まで、ネットワーク独自の給水体制で1月2日から4月1日までに、約18万人・90万回のトイレ支援を継続されてきました。汚水の汲み取りは被災自治体で手配可能ということで実施をお願いしたそうです。


 

トイレトレーラーは見附市だけ

 新潟県30市町村のうちトイレトレーラーを保有するのは「見附市」のみです。見附市はクラウドファンディングで取得。費用全体の約2600万円のうち約3分の2は、国の緊急防災・減災事業債という仕組みを使って起債し、後に地方交付税として算入されるので、実質3分の1が市町の負担となる部分をクラウドファンディングで賄っています。見附市は、目標600万円に対し、寄付人数161人、寄付総額1165万5000円、達成率194%と素晴らしい成果が出ています。ちなみに1月4日に輪島市に向かう途中の高速SAで「見附市」のトレーラーを目撃しました。

 災害多発県の新潟ですが、県面積が大きく県全体が被災することは考えにくいことを考えると、ブロックごとに複数市町村が何台かを保有できれば迅速に被災地域に派遣できる可能性もあります。すでに群馬県では、まず県内に6台のモビリティトイレを配備し支援し合いの仕組みを確立、大規災害等の場合は、災害派遣トイレネットワークへの要請で、県民の命と尊厳を守るとしてトイレ問題の解決を目指しています。昨年、県庁含め2台導入済み、今年2台が納車待ち、来年2台の予定だそうです。県内市町村の災害担当の皆様、ぜひ検討してみませんか。 

   (2024.5.7掲載)


 

略歴 はやし・たつひこ
1962年、本県出身。新潟大学医学部卒。医学博士。同大学医歯学総合病院第一外科などに勤務後、1999年、新潟県厚生連村上総合病院赴任、2012年、病院長、2024年より現職。専門は、一般・消化器外科。日本外科学会指導医・専門医、日本消化器外科学会指導医・専門医・消化器がん外科治療認定医、新潟県災害拠点病院協議会DMAT連絡協議会会長。

次回は6月5日、日本DMAT隊員で共に活動している長谷川聡先生(県立新発田病院小児科)を予定しています。


協力:株式会社メディレボ










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