top of page

  ご遺体に関わる仕事

  • ma-hara3
  • 5月2日
  • 読了時間: 4分

 

 私は,現在,新潟大学法医学教室・死因究明教育センターに勤務し、犯罪が疑われたり、身元が分からなかったりするご遺体の解剖やCT検案等、法医実務に従事しています。大学に勤務していますので、学生教育や研究にも携わっていますが、どうしても実務の割合が高くなります。今回は法医学についてご紹介したいと思います。





新潟大学大学院医歯学総合研究科

法医学分野 教授・死因究明教育センター長

高塚 尚和



法医学教室の日常


 法医学教室での解剖には司法解剖と調査法解剖とがあり、これらをまとめて法医解剖と称しています。司法解剖では裁判官の許可と警察などからの鑑定嘱託、調査法解剖では警察署長からの依頼が必要であり、ご遺体が発見されたその日のうちに解剖を行うことはまれです。少なくとも前日には解剖予定が分かりますので、ある程度余裕を持って対応できます。解剖とそれに伴う検査では、傷の有無、傷がある場合はその傷ができるメカニズム(成傷機序)、死因、死後経過時間、薬毒物やアルコール中毒の有無等を明らかにしていますが、解剖所見を記録に残すことも求められており、多くの写真を撮りながら解剖を進めます。傷の数にもよりますが、通常の解剖であれば、解剖後の簡単な検討会まで含めると2〜3時間、交通事故などの傷が多い事例では半日ほどを要します。一方、CT撮影を伴う検案は、連絡を受けてからその日のうちに実施することがほとんどであり,慌ただしく対応することもあります。

 


残る「死」の現実


 法医学では、お亡くなりになってから時間が経過したご遺体を扱うこともあり、「とても無理」と感じる方もおられると思います。実際、このようなご遺体の解剖や検案は珍しくありません。慣れもあると思いますが、淡々と接しております。しかし、生前、どのような生

活を送っておられたのか、お亡くなりになるときどう感じておられたのか、どうしたらこのような最期を避けることができたのか等、考えさせられることが少なくありません。その他、命を奪われた方、自死を選んだ方、火事などの事故に遭遇された方、山や海で事故に遭われた方、病気で急死された方等の解剖や検案を担当し、大規模災害が発生した時には日本法医学会(警察庁)からの依頼で被災地に出向きます。私自身は東日本大震災や能登半島地震の被災地でご遺体の検案に従事しました。

 臨床では患者さんの病状が悪化したり、お亡くなりになられたりすることもありますが、病状が快方に向かったり、回復したりした際には、患者さんと心から喜ぶことができます。法医学はどうでしょうか? 解剖で死因や成傷機序を解明できても「死」の結果は変わらず、「死」の現実は残ったままです。とてもそのような気持ちにはなれません。

 


気分転換は買い物、ドライブ


 ここまでお読みになって、法医学は後ろ向きで,ポジティブではない分野だと思われるのではないでしょうか。私が親しくさせていただいている(親しくなる?)先生は皆、お酒が好きな方ばかりです。自分も時々、深酒をします。以前、ある高名な先生は「お酒を飲まないとやっていられない」と書いておられました。これではアルコール依存症、アルコール性肝疾患へひたすら突き進むことになります。

 スポーツをするとか、楽器を演奏するとか、アウトドアを楽しむとか、今、特に取り組んでいることはありません。そうかと言って、仕事一筋でもありません。ただ、長く続いていることとして、県内外を構わずスーパー、デパート、道の駅等の食品売り場(お酒も)をのぞいて買い物をすること、何となく山や乗り物が好きなこと、シトロエンを何台か乗り継いでいること等があります。これまで続いてきたことをもう少し広く、深く楽しむようにしたいと考えています。

 

写真=買い物に欠かすことができない冷凍機能付き冷温庫とクールボックス。地域の特産品や酒のみならず、気になったものなどを入れて帰ります。春はサクラマスが欠かせません
写真=買い物に欠かすことができない冷凍機能付き冷温庫とクールボックス。地域の特産品や酒のみならず、気になったものなどを入れて帰ります。春はサクラマスが欠かせません

  (2025.5.7掲載)



【略暦】たかつか・ひさかず 1964年 岐阜県高山市出身。富山医科薬科大学医学部卒。新潟大学大学院(第二病理学)修了。富山医科薬科大学助手(法医学)、新潟大学医学部附属病院医員(病理部)、ローザンヌ大学博士研究員(生化学)、福井大学助手(法医学)、島根大学准教授(法医学)、新潟大学准教授(法医学)を経て現職。専門は法医学・法医病理学。

次回は新潟大学大学院保健学研究科教授(医学部保健学科・放射線技術科学専攻教授)の髙橋直也先生です。先生は死後画像診断(オートプシー・イメージング)の第一人者であり、死因究明教育センター副センター長を兼任されており、法医学分野で撮影する死後CTをすべて読影されています。高塚は画像診断が得意でなく,困ったとき,わからないときに教えていただいております。

協力:株式会社メディレボ









Comments


bottom of page