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地域医療ってどんな医療?

 私は今、新潟大学医学部で学生に地域医療を教えることを生業としています。また全国の医育大学で地域医療教育を担当する講座が連携して結成した一般社団法人全国地域医療教育協議会の理事長も拝命しています。一方、県内の医療機関でも内科医として助勤という形ですが働いていて、一時期は「へき地出張診療所」も担当し、訪問診療もしていました。またもともとは内科医として県内医療機関で働いていて、介護保険との連携や、地域のさまざまな医療・福祉職の皆さんと関わりを持ってきました。アプローチの仕方は変わってきましたが、これまで一貫して地域医療というものに関わり続けてきています。


新潟大学大学院医歯学総合研究科

地域医療確保 地域医療課題解決支援講座  地域医療分野

                               井口清太郎 

                 

 

一人の名医がいても…


 医学生と話すとき、地域医療という言葉からどんなことをイメージする?聞くと、たいてい離島やへき地、医師数のすごく少ない地域で孤独に頑張る医師像を答えます。ドラマ「Dr.コトー」のあんなイメージですよね。映画「赤ひげ」なんかも印象深いのですが、一人で黙々と患者さんを診る医師が良い先生の代名詞のような感じになっているようにも思います。それ自体はまったくその通りなのですが、時代の流れの中で個人の力に依存するような形では継続性が担保できない、という問題が生じてきてしまいました。その地域で働くたった一人の赤ひげ先生に頼ってしまうと、その先生が倒れたり引退したりしたもう終わってしまうわけで、それでは困ってしまいますよね。

  

イメージ誤解され拡散

【写真】寒い季節にはコートを着たまま診察することもありました

 地域医療という言葉は新聞紙上でも多く見ることがあるし、行政の文書などでも重点的な課題の一つとして取り上げられることが多い言葉です。でも、この地域医療って言葉ほど、誤解されて広まっている言葉はないのではないか、と実は思っています。

 地域医療の地域を英語で言うと分かりやすいと思います。地域はこの場合、communityになります。Rural(へき地)やremote(遠隔地)ではないのです。Communityは日本語でも「コミュニティー」とカタカナ表記されることがあり、割と浸透してきているのでニュアンスは伝わるかもれませんね。地域医療とは、へき地や遠隔地での医療だけを指すのではく、コミュニティーを診る医療をいうのです。だから、学生に話すのは、例えば新潟大学病院のすぐ隣の地域に住んでいる方でも、訪問診療が必要になって在宅医療を受けている人もいるろうし、そこにも地域医療が必要なんですよ、と説明しています。

 それから地域医療を実践していくためには、一人で活動することはできません。地域という広いエリアをカバーして活動していくためにはさまざまな専門性を持つ多職種の方々と協働してかなければ十分な役割を発揮することができません。医師だけでなく、看護師、薬剤師、放射線技師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療相談員、介護福祉士、介護支援専門員、多くの事務職員…他にもここで全てを挙げきれないほど多くの職種が関わり合って医療・福祉は成り立っています。そして、それぞれの職種が対等な関係を保ちながら、そしてそれぞれの専門性をかしながら患者さんに寄り添っていくことが地域医療では求められますし、特徴かもれません。

 


完結型への移行へ連携


 ちょっと話は変わりますが、2013年に国は「社会保障制度改革国民会議」というものを主催し、有識者から議論してもらいました。その中で出されたコンセプトの一つに「病院完結型医療から地域完結型医療への転換」というものがあります。それまでは入院から治療、その後のリハビリ、退院までを一つの病院で完結させていたのを、今後は入院から在宅に帰るまでを役割・機能の異なる病院間を移動しながら療養していくようにすべき、としたものです。一言で病院といっても、その規模も提供する医療内容も千差万別だからです。

 その地域完結型医療の提供のためには、医療と介護の架け橋ともなる地域医療がとても重要な役割を果たします。医療は専門性が高い分野がたくさんありますが、それだけでは医療全体は成り立ちません。特に高齢者は多疾病併存といって一人の患者さんが多数の疾患を同時に抱えることも多く、医療のみならず介護の力も必要となることが多々あります。その意味でも高齢化率が30%をえていくこの時代にあって医療と介護の連携は必須です。専門性が高い医療だけではこれらの患者さんに適切に対応することは難しく、広い裾野に対応しながら患者さんに寄り添うことが求められます。まさに先ほど説明した地域医療の特徴に合致しますね。そして一人のスーパードクターや神の手を持つドクター、あるいは赤ひげ先生がそれを成し遂げるものでもありません。いろんな医療・福祉職が連携してチームをつくり、それぞれが役割を果たしながら患者さんに寄り添う医療・介護を展開する、これが地域医療の理想の形なのです。

 

【写真】山間地では、時に素晴らしい景色を見ることができます(福山新田の雪中桜


                                       (2025.1.6掲載)


 
略歴 いぐち・せいたろう
 1994年 新潟大学医学部卒。2000年 新潟県立六日町病院内科。2003年 新潟大学医歯学総合病院。2006年 新潟大学地域医療教育支援コアステーション助教授。2009年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 総合地域医療学講座特任教授。
 現在は新潟大学大学院医歯学総合研究科 地域医療確保・地域医療課題解決支援講座 地域医療分野を担当し地域医療学を専門としている。(一社)全国地域医療教育協議会理事長、日本内科学会地域医療ワーキンググループ代表、新潟県医師会理事等を歴任。
 次回は、井口先生が学生の頃からさまざまな面でお世話になっていた新潟大学の先輩・関川村国民健康保険関川診療所所長・平田丞先生です。研究者として、大きな仕事をされてきましたが、心機一転、故郷に帰られて、今は関川村で診療所長をしています。その「『一隅を照らす』とも言うべき生きざま」(井口先生)を、井口先生は心から尊敬しているそうです。
 

協力:株式会社メディレボ









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