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 病院が地域の学びやに


患者さんの特徴は…



 上の図はある地域の1000人の住民にどのような健康問題が発生するかを調査したものです。医療機関を受診する307人の一部は救急受診したり入院治療が必要になったりする方もいます。私は魚沼市(人口約3.3万人)の市民病院に勤めています。自治体の基礎医療を担う市民病院は,地元医師会と協力して入院・外来・救急・在宅といろいろな場で医療を担当していますが、その対象は上図の307人の“患者さん”です。患者さんの中には「なぜもっと早く受診できなかったのだろう?」「なぜこんなリスクの高い生活を続けていたのだろう?」と思ってしまう方も少なくありません。


 



                                                                     魚沼市立小出病院 院長 

                                  布施 克也 

                 

 

魚沼の医療再編3事業


 新潟県の医師不足は深刻で,中でも魚沼圏域は県内で最少の医師数です。「21世紀の持続可能な地域医療体制の構築」という大きなテーマで動き始めた魚沼圏域の医療再編成に際して、医師会をはじめとする地元医療人は「医者がいないのだから患者を減らすしかない」と話し合いました。それまで魚沼になかった高度医療・専門医療の拠点(魚沼基幹病院)が整備される一方で、市民病院と医師会がプライマリ・ケア、ことに予防医療に重点を置くことで限られた医療資源の有効活用を図ろうと考えたことでした。上図の307人が重症化しないようプライマリ・ケアを充実させ、患者自身に当事者意識をもって治療参加してもらいたい。862人の中の「医療が必要」な人を(本人か家族が気づくことで)医療につなげるルートを増やしたい。そして1000人に対して「自分と家族の健康は自分で守ろう」というメッセージを伝えよう、と話し合いました。

 魚沼の医療再編成では「地域医療再生基金事業」として三つの事業がありました。一つは「魚沼基幹病院の創設」です。再編成事業の本丸です。一つは「魚沼医療情報ネットワーク(うおぬま米ねっと)」です。医療機関・福祉施設の連携を前提とした再編成なので、情報の共有が不可欠だからです。そしてもう一つが「地域医療魚沼学校」事業でした.「病院完結から地域完結へ」という再編成理念の周知、住民の健康増進・医療参加を促す啓発の枠組みとしてつくられました.その役割を担う医師会では「知らないことは学ぶしかない」「予防・医療・介護・福祉についての情報を持っている人間が集中している場所は病院だから病院を学ぶ場にしよう」「学ぶ場だから“学校”と名付けよう」と話し合い、専門職・学生そして住民が一緒に集い学ぶ場として「地域医療魚沼学校」事業が始まりました。市民病院の講堂で専門職と住民が共に学ぶ教室を定期開催し、学校や地域の茶の間などの現場に、タバコ・アルコール・性・依存症・生活習慣病・がん・人生の最終段階などさまざまなテーマに対応する講師を派遣しています。また市と医師会共催で「市民公開講座」を定期的に開催し、2022年度には「うおぬまでACPする」というタイトルで市報に1年間連載枠をいただき,多職種で分担執筆しました。


住民こそ医療資源


 地域医療魚沼学校の基本理念は「住民こそ医療資源である」です。住民一人ひとりが「自分と家族の健康に責任を持ち,地域の医療資源を適正利用する」ことができたら、医療資源が増えることと同じ効果があるからです。2011年にスタートしたこの事業に2023年度末までにのべ42461人が参加してくれました。患者さんが治療参加してくれることで慢性疾患管理の向上が得られつつあります。人生の最終段階についての学びが広がったことで,(静かなお看取り方針が合意されていたのに救急要請してしまう)「望まない救急搬送」は、魚沼市消防ではこの数年でほぼなくなりました。

 地域の中で「健康や医療福祉について学べる場所」をつくり、住民が地域医療資源として参加してくれることで、医療資源の乏しい魚沼でも21世紀の地域包括ケアシステムの安定と発展を目指していきたいと思います。

                       

                                   (2024.12.6掲載)


 
略歴 ふせ・かつや  1984年、自治医科大学卒業。2001年4月、県立松代病院長。2008年4月、県立小出病院長、2011年4月、地域医療魚沼学校長、2015年6月から魚沼市立小出病院長。日本プライマリ・ケア学会専門医・指導医。


 次回は布施院長と2011年の地域医療魚沼学校開校時からの同志でもあり、魚沼地域を地域医療学フィールドに育ててきた新潟大学大学院 医歯学総合研究科 総合地域医療学講座特任教授 井口清太郎先生が登場します。


協力:株式会社メディレボ









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