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「誰かのために」はどう育つのか
(2026/9/7) 「地域枠」と聞いてどのような制度を思い浮かべるでしょうか。「多額の修学資金の貸与と引き換えに地域医療に従事しなければならない入試枠」「医師が不足している地域に医師を派遣する制度」。報道などからそんなイメージを持っている方も多いかもしれません。 私は臨床医として診療に従事しながら新潟県庁で地域枠をはじめとする医師確保の仕事にも携わっています。しかし、地域枠に関わるほど感じるのは、これは単なる「医師を確保するための制度」ではない、ということです。 地域枠の本来の目的は地域医療に貢献する医師を「育てる」ことにあります。では、地域医療に貢献する医師とはどのような医師でしょうか。医学の知識や技術はもちろん大切です。しかし、それだけでは十分ではありません。地域にはどんな人がいて、どんな生活をしているのか。社会では今、何が問題になっているのか。そして自分の持つ知識や技術を「誰のために」どう役立てるのか。社会の中に自分を置き「自分に何が求められているのか」「自分の力を誰のために使うのか」を考える力が、これからの医師には大切だと考えてい


メディカルケアからヘルスケアへ -虫の目・鳥の目・魚の目
(2026/8/7) 病院管理の仕事の合間に、救急外来や訪問診療を担当し、民生委員の集まりにも顔を出す中で医療福祉についての多くの方の声を聞いてきました。その経験から浮かび上がってきた課題を「虫の目」「鳥の目」「魚の目」の三つの視点で考えてみます。 JA新潟厚生連糸魚川総合病院 病院長 山岸 文範 患者さんを見る虫の目 まずは「虫の目」です。目の前の一人の患者さんの歩みを見つめる視点です。独居の高齢者が、体調が悪くても病院に行けないことがあります。バス停は遠く、電動車を置く場所もない。タクシーを使えば高額で、来るまでに時間もかかる。そうして我慢しているうちに症状が悪化、自宅で倒れて翌日以降に家族に発見される。病院に運ばれた時には、熱中症や脱水、急性腎不全、心不全、感染症などが重なり、認知症もあるため


「生活」のススメ
(2026/7/7) 当たり前のようにある医療・介護・福祉(以下、医療福祉と記します)が当たり前でなくなりつつあります。最たる原因は、ご存じの通り人口減少と少子高齢化です。世界最先端を突き進むわが国の急速な高齢化は医療福祉需要を急増させ、高齢者のみの世帯を増やしています。深刻なのは働き手人口の減少です。生まれる子どもの数は恐ろしい勢いで減っており、将来の働き手がさらに減少することを約束しています。いずれ高齢者人口も減少するものの、働き手の減少はこれを大きく上回るため、今できている医療福祉は確実に減っていきます。医療福祉だけではありません。働き手の減少はすべての仕事に大きな影響を及ぼします。運転手が減ってバスの運行が減る状況と同じです。 JA新潟厚生連佐渡総合病院 病院長 佐藤 賢治 進む医療福祉の縮小 当たり前にあった医療福祉が縮小あるいは撤退すると聞かされれば、住民は不安になるで


認知症と共に生きる時代へ―私たちが今日からできる予防策
(2026/6/8) 認知症と「共生社会」 超高齢社会の現在、認知症は高齢になれば誰もがなりうる身近な病気です。かつての「何もできなくなる」という誤解は見直され、希望を持って自分らしく暮らす「新しい認知症観」が広がっています。これを背景に2024年、「認知症基本法」が施行されました。目的は、認知症の人が尊厳を持ち、能力を発揮しながら共に生きる「共生社会」の実現です。私たち一人ひとりが正しい知識を持ち、温かく見守る社会を作ることが求められています。 総合リハビリテーションセンター みどり病院 病院長 成瀬 聡 認知症リスクの約半分はコントロールできる 認知症を完全に防ぐ魔法の薬はまだありませんが、希望となるデータがあります。世界的な医学誌『Lancet』の2024年の論文によると、認知症の要因の約半分(45%)は「予防や改善が可能な身近な生活習


手外科ってなに?
(2026/5/7) 手外科(てげか)とは整形外科と形成外科を基盤とする手を含む上肢の機能を改善する医学専門分野です。人類は手を使って道具を操ることで脳の発達がおき、文明を発展させてきました。脳における手の支配領域は非常に大きいものがあります。 一般財団法人 新潟手の外科研究所 新潟手の外科研究所病院 理事長 坪川 直人 手で読み、会話も可能に 心臓、肺、肝臓などの臓器とは異なり、手は生命維持に直接影響はありません。しかし人間の手は非常に敏感な知覚、優れた運動機能を有しており、日常生活において手が使用できない不便さは計り知れません。視覚障害者の方では物を触ることで対象を認知でき、点字を使用することで物語を読むことができます。聴覚障害者の方は手話を使って会話が可能となります。 世代、性別を超え受診 手外科は非常に多くの疾患を扱っています。小児の


女性医学と私
(2026/4/8) 私は今年3月までの22年間、新潟市民病院産婦人科に勤務し、主に周産期医療(妊娠・出産に関わる医療)に携わりました。同院の総合周産期母子医療センターでは、母体と胎児の救命のために、医師・助産師・看護師など多職種が連携し、24時間体制でチーム医療を行っています。4月1日からは医療法人恒仁会・新潟南病院に勤務しています。 医療法人恒仁会新潟南病院 女性診療科・婦人科部長 倉林 工 妊娠に伴う変化を注視 妊娠中に高血圧や蛋白(たんぱく)尿を発症する妊娠高血圧症候群(HDP)は、重症化すると母児の生命に関わることがあります。適切な時期に帝王切開などで妊娠が終わると、多くの場合症状は改善します。しかし、HDPだった女性は、将来的に高血圧症のリスクが約3倍、脂質異常症が約1.5倍に上昇すると言われています。また、妊娠糖尿病だった女性は、将来2


新しい疾患との出合い -IgG4関連疾患
(2026/3/5) 皆さん、IgG4(アイジージーフォー)関連疾患という言葉は聞いたことがありますか? なじみのない病名ですよね。実はこの疾患は21世紀になって日本から発信された新しい病気なのです。以前、自己免疫性膵(すい)炎、後腹膜線維症、ミクリッツ病、などさまざまな名前で呼ばれていたものが、実は同じ病気のいろいろな部分をみていた、ということが分かり、それらをまとめて「IgG4関連疾患」という名前が付けられました。私は長岡赤十字病院(長岡日赤)にいたことで、この新しい疾患の誕生に立ち会うことができ、そして現在、日本、世界の研究者と一緒に臨床、研究をさせてもらっています。新潟県の一般病院にいながらにしてそんな素晴らしい出会いがあることにあらためてびっくりです。 長岡赤十字病院


私の二刀流
(2026/2/5) 私の勤務する新潟リハビリテーション病院は、2001年に開院しました。 「地域で人を支え、人生を支える医療を届けたい」―。その理念のもと、質の高いリハビリテーション医療を基盤に、近年は人工関節やスポーツ整形の分野にも積極的に取り組んでいます。 新潟リハビリテーション病院 山本 智章院長 病院を離れた医療 その象徴が、メディカルフィットネス「ロコパーク」です。 https://aiko.or.jp/locopark/ 現在、600名を超える地域の皆さんが日常的に運動に取り組み、笑顔と活気があふれる場所となっています。楽しそうに集う声を聞くたびに、医療は病院の中だけで完結するものではないと、改めて実感しています。 この臨床現場から、私の「二刀流」の挑戦は始まりました。 「野球医学」とともに 成長期の野球ひじを重症化させない―。その思いから、200


スポーツ医学と私
(2026/1/6) スポーツとけがの少年時代 小学生では陸上、水泳と少年野球、中学ではバレーボールとサッカー、高校からはサッカーとスポーツに明け暮れ、ねんざや骨折など、けがが絶えなかった私は外科医の父親の影響を受けて新潟大学医学部に行きました。そこでもサッカーに没頭しながら3度の骨折を経験し、卒業後は必然的?に整形外科の道に進みました。 新潟医療福祉大学 健康科学部健康スポーツ学科 大森 豪教授 スポーツ医学との出合い 新潟大学病院整形外科では「膝関節・スポーツ医学研究班」に属したものの、人工関節の研究で米国に留学。帰国後も大学で変形性膝関節症の臨床と研究の毎日でした。そんな中、新潟県サッカー協会医科学委員会のメンバーに加えていただき、国体の帯同や国際試合の会場医事など、スポーツの現場に関わるようになりました。さらに、日本臨床スポーツ医学会に参加しスポーツ医学は整形外科だけではない広い学問領域であること、スポーツ選手の外傷・障害も多岐にわたり、治療と同時に予防が極めて重要であることを学


私と総合診療科
(2025/12/11) 私は新潟大学医学部を卒業し、内科となりました。専門は呼吸器内科で、20年経過した後、総合診療医として第二のキャリアをスタートしました。その後は呼吸器専門医と総合診療医の二足のわらじを続けて、昨年の春に大学病院の総合診療科を定年退職しました。現在は大学病院総合診療科の非常勤医師のほか、新潟県内複数の医療機関で、総合内科や呼吸器内科の外来を担当しています。 「総合診療科/医」は、だいぶ知られた存在になりつつありますが、内科、外科や小児科、精神科などの診療科と違って、よく分からないと思う方も多いと思います。日本では、約50年前に、従来のどの診療科とも直接の関係を持たず、いわゆる専門医療の谷間にあるため、十分な医療を受けることができない患者さんに対する医療として設立され、その後高度先進医療と併存しつつ「患者中心の医療」をその中核として発展してきたものです。新潟県では、21世紀に入ってから各種医療機関に総合診療科、ないしはそれに準ずる診療科が徐々に設けられました。 総合診療は、患者さんにとってその医療サービスを受けやすい、す


スポーツボウリング
(2025/11/7) 新潟県立津川病院の院長をしております原勝人です。私の趣味のボウリングの話を始めると本が一冊書けるほどと言いながら、いつも地域医療の話をしているので、今回はボウリングのお話をしたいと思います。毎年、ボウリングに熱中している医師が集結する全日本医師ボウリング大会が、10月の3連休に今年は三重県で開催されました。コロナ禍での3年間の中断はありましたが、令和5年より再開され、今回の全参加者は85人、新潟県からも私を含めた5人の選手団で参加してきました。結果は4人戦で新潟Aが準優勝、ダブルス戦で滝沢先生と塚田先生のチームが準優勝、9ゲーム年齢ハンデ込みの種目総合で私が6位入賞と、まずまずの結果でした。 県立津川病院 原 勝人院長 なぜ熱中するのか なぜボウリングに熱中するのかという話ですが、ボウリングは習熟すればするほど世界が広がる、非常に奥行きの深いス


山登りノススメ
(2025/10/7) コロナ禍で外出もままならない時期、山ならば人に迷惑も掛からないだろうと、しばらく遠のいていた山登りを復活させました。そのままどっぷりとはまってしまい、今では体重も減って、とても健康になりました。厳しい山登りではなくとも、自然に親しんで歩くことはとても健康にいいことだと再認識したので、それについてお話ししたいと思います。 大日方医院院長 大日方一夫 夢の南極で2回越冬 大学生の時はワンダーフォーゲル部で登山や山スキー(今はバックカントリーと言います)に明け暮れていました。事実、クラスの集合写真にはほとんど写っていないことが判明しました。山に行っていて授業はサボってばかりだったと、反省しています。 それでも何とか卒業できて、外科医になってからは年に1、2回細々と登山を続けていました。 そろそろ研修期間が終わりそうな時期になり、子供の頃からの


機能的脳神経外科って何?
(2025/9/5) 一般の方々にとって「機能的脳神経外科」は聞き慣れない言葉だと思います。簡単に言えば、「患者さんが困っている症状を脳や脊髄(せきずい)に外科的な治療を加えることによって軽減する」脳神経外科の一つの分野です。脳神経外科の主流は脳卒中や脳腫瘍な命に関わる病気を外科的に治療するものですが、この「機能的脳神経外科」は、命に関わる病気ではありませんが、患者さんが困っている症状を改善することでより良い生活を送ることができるようにするという意味で重要な分野の一つです。私は2015年10月から新潟市西区にある国立病院機構西新潟中央病院に勤務しています。当院の脳神経外科はこの「機能的脳神経外科」に特化した全国でも珍しい病院です。それでは、次に「機能脳神経外科」の実際の手術をご紹介します。 国立病院機構西新潟中央病院脳神経外科 福多真史 てんかん外科 てんかんは脳の細胞が異常に興奮して様々な症状を一時的に出現させるてんかん発作を繰り返すもので、100人に1人弱の患者さんがいると


脳の手術について
(2025.8.6掲載) 私は新潟大学医歯学総合病院で脳神経外科を担当しております。「職業は脳神経外科医です」と言えば,みなさんからは無機質で取っ付きにくい人と思われるかもしれませんが,実際の私は,学生時代所属したラグビー部の学生と今も時々汗を流し、チームで一緒に泣いたり笑ったりすることが大好きです。今の脳神経外科の仲間も実はそういう人間が多く、チームで手術の成功を分かち合い,患者さんも我々も幸せになれるよう、力を合わせて努力しています。 新潟大学医学部脳研究所脳神経外科 大石 誠 教授 開頭手術のおはなし 今日は、直接みなさまのお役に立つ話ではないのですが,普段私たちが患者さんに行っている脳の手術、つまり開頭手術についてご紹介したいと思います。開頭手術が必要と言われれば、誰でも「死んでしまうかもしれない!」と恐怖を感じることでしょう。その目的は,事故による頭部外傷や突然の脳卒中など生命の危機で一刻を争うものから、生命には影響ないものの、苦しんでいる症状を除去するためのものまで多岐にわたります。しかし、何せ脳はとても硬い


病理医と病理診断
(2025/7/17) 私は新潟大学で学生教育に携わりながら、病理医として診療に従事しています。病理医が主人公の漫画・ドラマの影響で少しずつ知名度が上がっていますが、それでもなお「料理医?」(そんな職種はありません)と聞き間違われることがあるほど、まだ一般的にはなじみの薄い存在です。現在、小児科医、産婦人科医、麻酔医の不足が問題になっていますが、病理医はこれらの医師よりはるかに少なく、絶滅危惧種とさえ言われるほどです。病理医が1人増えれば世の中に大きく貢献できると考えて25年前の私は病理医になることを決め、そして次はできるだけ多くの優れた病理医を育てて新潟の医療の質の向上に貢献するために教授になりました。今回はその病理医の仕事と病理診断についてご紹介します。 新潟大学医学部医学科臨床病理学 大橋瑠子教授 生検後の診断担う 病理診断とは、患者さんの体から採取された臓器、組織や細胞の一部を肉眼また


放射線診断医の仕事と死後画像診断
(2025/6/6) 私は1988(昭和63)年に新潟大学医学部を卒業して、それからの40年弱、放射線科医として働いてきました。皆さんには放射線科の医師はあまりなじみがないかもしれません。「放射線技師とは違うのですか?」と言われることもしばしばです。ここでは、まず放射線診断医の仕事を、続いて私の専門分野の死後の画像診断を紹介します。 新潟大学大学院保健学研究科 死因究明教育センター副センター長 高橋 直也教授 ドクターズ・ドクター 放射線科医は、放射線を使ってがん治療を行う放射線治療医と、CTやMRIなどの医療画像を担当する放射線診断医に分かれています。放射線診断医は病院で行われる医療画像の管理と画像診断を担当しています。皆さんの中には、放射線科を舞台としたテレビドラマ「ラジエーションハウス」をご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。ドラマでは本田翼さんと浅野和之さんが放射線科医を演じていました。非現実的な部分もありましたが、放射線科の雰囲気や検査の場面は、わりあい実際に近いものでした。劇中で本田さんが「アメリカでは放射線科医


ご遺体に関わる仕事
(2025/5/2) 私は,現在,新潟大学法医学教室・死因究明教育センターに勤務し、犯罪が疑われたり、身元が 分からなかったりする ご遺体の解剖やCT検案等、法医実務に従事しています。大学に勤務していますので、学生教育や研究にも携わっていますが、どうしても実務の割合が...


患者さんの情報共有と警察医
(2025/4/4) 2007年から、新発田市の海岸に近い旧紫雲寺町で 、 夫婦で開業しています。当クリニックでは、プライマリ・ケア(病気やケガをした際に最初に相談する初期診療)を中心に、在宅医療、禁煙外来、発熱外来、予防接種などを行っています。今回は、普段患者さんの目...


患者と家族に寄り添って
(2025/3/5) 私は1988年に新潟大学を卒業し、1990年、荒川正昭先生が主宰なさっていた 新潟大学病院 第二内科に入局しました。荒川先生のお仕事ぶりは すさ まじいもので、「睡眠時間は3時間」などという うわさ...


“Think globally, act locally.” =標準を見据え、地域で行動=
(2025/2/5) 関川村は新潟県の北東に位置し山形県小国町に接する自然が豊富な村です。人口は4,691人、高齢化率は45.5%(2024年12月末)であります。昨今は、村の大蛇伝説「大里峠」と1967(昭和42)年に起きた羽越水害の供養とをテーマに1988(昭和63)年から行われてきた「大したもん蛇まつり」がとても有名になりました。 関川村国民健康保険関川診療所 所長 平田丞 プライマリ・ケアとは 私は現在この村の村営の診療所で、プライマリ・ケアを中心とした医療に携わらせていただいています。 プライマリ・ケアとは「患者さんが抱える問題の大部分に対処でき、かつ継続的なパートナーシップを築き、家族および地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される、総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである(1996年、米国国立科学アカデミー)」と定義されています。やや難しいですが、要するに、かかりやすくて、なんでも診てくれたり相談に乗ってくれたりして、いろいろな職種

