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機能的脳神経外科って何?

  • ma-hara3
  • 9月5日
  • 読了時間: 6分
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 (2025/9/5)


 一般の方々にとって「機能的脳神経外科」は聞き慣れない言葉だと思います。簡単に言えば、「患者さんが困っている症状を脳や脊髄(せきずい)に外科的な治療を加えることによって軽減する」脳神経外科の一つの分野です。脳神経外科の主流は脳卒中や脳腫瘍な命に関わる病気を外科的に治療するものですが、この「機能的脳神経外科」は、命に関わる病気ではありませんが、患者さんが困っている症状を改善することでより良い生活を送ることができるようにするという意味で重要な分野の一つです。私は2015年10月から新潟市西区にある国立病院機構西新潟中央病院に勤務しています。当院の脳神経外科はこの「機能的脳神経外科」に特化した全国でも珍しい病院です。それでは、次に「機能脳神経外科」の実際の手術をご紹介します。


              国立病院機構西新潟中央病院脳神経外科  福多真史

                 


てんかん外科


 てんかんは脳の細胞が異常に興奮して様々な症状を一時的に出現させるてんかん発作を繰り返すもので、100人に1人弱の患者さんがいると言われる比較的頻度の高い病気です。抗てんかん発作薬と言われる薬の治療が中心となり,近年はたくさんの新しい薬が販売されていています。しかし、約7割のてんかんの患者さんは薬の効果があり発作がなくなりますが、残りの3割の患者さんはいろいろな薬を試しても発作が止まらず、難治性(薬剤抵抗性)てんかんと言われます。

 てんかん外科治療はこの難治性てんかんの患者さんが適応になります。てんかん外科治療は発作がなくなることを目的とするものと発作の頻度や程度を軽くするものに分けられます。発作消失を目的とする手術としては焦点切除術があり、てんかんを起こしている原因の脳の部位を探して、この部分を切除する手術です。MRIやCTなどの検査でてんかんの原因となる病変がはっきり分かる場合もありますが、全く分からない場合もあります。その時には入院して、ビデオと脳波を同時に記録するビデオ脳波検査などを行い、焦点がどこにあるかを評価します。それでも焦点が分からない場合には頭の中に電極を一時的に埋め込んでビデオ脳波検査を行う必要があります。少し前までは、頭蓋骨を大きく開けてから脳の表面にシート状の電極を敷き詰める手術を行い、その後2、3週間ぐらい病室でビデオ脳波検査を行っていましたが、この方法は患者さんの負担が大きく、また合併症も多いと言われていました。最近ではロボットを使って、細いドリルで頭蓋骨に孔(穴)をあけ、深部電極と言われる細い電極を焦点と思われる部位に何本か埋め込む方法が主流になってきました(図)。

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 この方法は患者さんの負担も少なく、今まで開頭して電極を入れるのをためらっていた患者さんにも適応が広がり、当院ではこのロボットを使った電極埋め込みの件数がかなり増えています。

 焦点切除はMRIなどの画像検査でてんかんの原因となる病変がある場合には6割以上,ない場合では5割ぐらいの患者さんが手術後に発作がなくなります、薬を3錠、4錠と試しても発作がなくなる確率は5%にも満たないと言われていますので,外科治療の発作消失率は非常に高いものと言えます.

 また、焦点を探すのが難しい患者さんや脳全体がてんかんの原因となっている患者さんには、発作を軽くするためのてんかん外科治療があります。迷走神経刺激療法と脳深部刺激療法が代表的なもので、いずれも刺激装置を体内に埋め込む必要がありますが、大きな発作がなくなったり、発作の回数が減ったりするだけでも患者さんによっては日常生活の大きな改善につながります。

 実はてんかんに対する外科治療があることすら認知されていない地域もあります。発作がなかなか止まらない患者さんは、一度てんかん外科が受けられるかどうかを評価するべきです。当院をはじめとしたてんかんセンターへの早期受診をお勧めします。


パーキンソン病の外科治療


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 パーキンソン病も薬の治療が中心となります。ただ早期には薬が良く効いて普通の生活が送れていても、年月が経つにつれて薬の効きが悪くなったり、体が勝手に動いてしまうジスキネジアという副作用が出たりします。パーキンソン病も新しい薬が次々と発売され、最近では胃に穴をあけて薬を持続的に注入したり、皮下に薬を持続的に注入したりという治療法も出てきています。脳外科的な治療としては脳深部刺激療法という方法があり、脳の深いところにある視床下核(ししょうかかく)というパーキンソン病の原因となっている小さな構造部に細い電極を埋め込んで、持続的に刺激をすることによって症状が改善する治療法です。患者さんによって効果には多少差がありますが、刺激をすることによって薬の効果が切れて動けなかった患者さんが動けるようになったり、ジスキネジアがなくなって日常生活が楽に送られるようになったりするというような効果が認められます。特に発症からの年月が短く、より若い患者さんで効果が高いことが報告されています。

 パーキンソン病の患者さんやご家族の中には、手術は最後の手段と考えている方が多いですが,決してそうではありません。薬の効きが悪くなったり、副作用が出てきたりした時には、できるだけ早期にこの脳深部刺激療法を受けた方が、その後の経過もより良好になります。パーキンソン病は残念ながら今のところ完全に治す治療方法はありません。早めに手術を受けて、薬の治療とともに脳深部刺激療法を続けていくことが重要です。外科治療というと怖いと感じている患者さんが多いと思いますが、一度当院を受診していただければと思います.

 


その他の外科治療


 パーキンソン病以外にも体の一部が勝手に動いてしまったりする不随意運動、手足がつっぱってしまって緊張がとれない病気(痙性:けいせい)、脳、脊髄、末梢神経などの神経が傷ついた後に痛みが出る神経障害性疼痛などに対する手術、顔面けいれんや三叉(さんさ)神経痛に対する手術なども行っています。詳しくは西新潟中央病院機能神経外科のホームページをご参照ください。



略歴 ふくだ まさふみ 1962年福島県須賀川市出身,1987年新潟大学医学部卒業,新潟大学脳研究所脳神経外科入局.1995年から99年国立療養所西新潟中央病院(現在の国立病院機構西新潟中央病院)に勤務.1999年から2001年までアメリカ合衆国ニューヨーク州ノースショア大学病院に留学.2003年4月から15年9月まで新潟大学脳神経外科勤務.15年10月から現職.

 次回は五泉市にある大日方医院院長の大日方一夫先生です.大日方君とは大学の同級生であり,同じワンゲル部で一緒に山に登っていた仲間で,今もときどき飲みに行ったりしている友人です.学生の時から面白く,いつも周りの人を楽しませくれていました.南極大陸に越冬隊として参加したり,今も海外の有名な山を登りに行ったりと人生経験の豊富な先生です.

 協力:株式会社メディレボ








 
 
 

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