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 病理医と病理診断

  • ma-hara3
  • 7月17日
  • 読了時間: 5分

更新日:7月23日

(2025/7/17)

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 私は新潟大学で学生教育に携わりながら、病理医として診療に従事しています。病理医が主人公の漫画・ドラマの影響で少しずつ知名度ががっていますが、それでもなお「料理医?」(そんな職種はありません)と聞き間違われることがあるほど、まだ一般的にはなじみの薄い存在です。現在、小児科医、産婦人科医、麻酔医の不足が問題になっていますが、病理医はこれらの医師よりはるかに少なく、絶滅危惧種とさえわれるほどです。病理医が1人増えれば世の中に大きく貢献できると考えて25年前の私は病理医になることを決め、そして次はできるだけ多くの優れた病理医を育てて新潟の医療の質の向上に貢献するために教授になりました。今回はその病理医の仕事と病理診断についてご紹介します。



新潟大学医学部医学科臨床病理学 大橋瑠子教授

 


 生検後の診断担う


 病理診断とは、患者さんの体から採取された臓器、組織や細胞の一部を肉眼または顕微鏡で観察し、病気の種類や進行の程度、将来の見通し、薬の効果などを診断する医療行為です。そして、この病理診断を専門に行う医師が病理医です。

病理診断の対象は全身のすべての臓器にわたり、また対象となる病変も、がん(悪性腫瘍)、良性腫瘍、結核・ウイルスを含む炎症、心筋梗塞や脳梗塞、骨折に至るまであらゆる病変に及びます。胃カメラでポリープやがんが疑われる病変の一部を取ったり、皮膚や乳房にできたしこりの一部を取ったりするなど、病理診断のために病変の一部を取ることを「生検」といいます。生検は内科や外科、皮膚科など各科の臨床医が行いますが、その病理診断は病理医が行います。例えばがんの手術の場合、外科系の医師が摘出した病変を病理医が観察し、がんの種類や進行の程度、病変がすべて取りきれたかどうかやどの薬が有効かなどを病理診断して治療方針の決定に貢献します。手術中に短時間でがんかどうかやリンパ節転移の有無などを診断することもあります。これを術中迅速診断といい、その結果が術式の変更や手術範囲などの執刀医の判断を支えます。また、不幸にして患者さんが亡くなられた場合には、病気の広がりや死因、治療の適切性などを病理医が解剖を行って調べることがあります。これを病理解剖といいます。

  


 主治医支える「ドクターズ・ドクター」



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 すべての病理診断の結果は主治医に報告され、患者さんの治療に生かされますので、病院に病理医がいることは医療の質の向上につながります。正確な病理診断のためには主治医が患者さんについて調べた臨床情報や検査データ、放射線科医の放射線画像診断情報、さらには遺伝子検査の結果などもわせて患者さん全体を総合的に診て判断する必要があります。そのため病理医には幅広い知識と見識が必要で、チーム医療の一員として多職種と連携して主治医が正しい最終診断や治療に行きつくための相談役を担うことから海外では医者の医者(ドクターズ・ドクター Doctor’s doctor)、医学探偵(medical detective)とも呼ばれています。

病理医が患者さんと直接会う機会は少ないものの、大学病院や大きな総合病院などでは「病理診断科外来」を設けており、主治医の紹介により病理医から直接説明を受けることができる場合があります。病理医から説明を聞くと、病気に対する理解が深まり、治療に前向きになることが期待できます。これまでに生検や手術で病理診断を受けたことがあり、ご自分の病気についてもっと深く知りたい方は主治医・かかりつけ医にご相談ください。

 

  

 演奏通じ仕事をPR


 なぜか病理医には音楽経験者が多く、2011年には全国の病理医を中心とする日本病理医フィルハーモニーというオーケストラが結成されました。広く市民、患者さんやそのご家族に病理医と病理診断について知っていただくことと若手病理医のリクルートを目的に活動し、学会の市民公開講座やチャリティーイベントなどで演奏活動を全国各地で不定期に行っています。私はトランペットを演奏しています。いつか新潟もしくはどこかで音楽を通じて皆さまとお目にかかる機会があるかもしれません。



2022年11月、仙台で開催された日本臨床細胞学会で演奏=中央が大橋瑠子先生
2022年11月、仙台で開催された日本臨床細胞学会で演奏=中央が大橋瑠子先生
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2025年4月、仙台市で行われた日本病理医フィルハーモニー第12回演奏会    



  (2025.7.17掲載)



【略暦】おおはし・りうこ 新潟市西蒲区(旧西川町)出身。2001年浜松医科大学医学部卒。新潟大学助教(病理学)、チューリッヒ大学病院客員医師(兼任・留学)、新潟大学准教授(病理学)を経て24年3月から現職。新潟大学医歯学総合病院病理部長、検査部長。新潟大学医学部研究推進センター病理組織標本部門長を兼任。日本専門医機構病理専門医、日本病理学会分子病理専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、国際病理アカデミー日本支部理事。専門は病理学。

 次回は 新潟大学脳研究所 脳神経外科学教授大石誠先生です。大石先生は脳外科医として、多職種で連携して診療にあたる際や大学の学生教育を行う上でともに活動し、常に的確なご指導と温かいご助言をくださる尊敬すべき先輩です。いつも気軽にいろいろな相談にのってくださり、県外出身ですが、とても新潟を愛してくださって業務に励んでおられます。

協力:株式会社メディレボ









 
 
 

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