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「たかが頭痛、されど頭痛」


 長岡赤十字病院に奉職して、30年近くになります。併設されている長岡赤十字病院専門学校で、看護学生たちに神経内科の病気についての講義もしています。ある日、講義が終わった後、ひとりの女子学生が、「先生、私、看護実習の前に、必ずとっても頭が痛くなるんです」とやってきました。話を聞くと、高校生の時に、ものすごい頭痛に襲われて、病院に搬送されたことがあったそうです。入院して血管造影の検査までされたけど、「脳には異常がない」と言われて帰されたとのことでした。


長岡赤十字病院 副院長/神経内科

藤田信也                               



 

「片頭痛」と「緊張型頭痛」 


 毎日のように頭痛に悩んでいる人は少なくありません。検査しても脳腫瘍などの異常が見つからない機能的な頭痛には、片頭痛」と緊張型頭痛があります。「緊張型頭痛」は、パソコンなどの事務仕事をしている人などが、夕方になると肩こりと共に頭のしめつけられる頭痛を感じるものです。運動したり、熱いシャワーを浴びたりすると多少なりとも改善します。「片頭痛」は、繰り返し突然襲ってくる頭痛です。女性に多く、頭痛は重く、仕事を休まなくてはならない人もいます。片頭痛といっても、片側とは限らず、両側のこめかみが痛む人もいます。ズキンズキンとした拍動性の痛みで、吐き気や嘔吐を伴うことが多く、なかには、頭痛の前に、視界がギラギラとする(閃輝暗点といいます)こともあります。緊張型頭痛とちがって、痛い時は頭を冷やして、大きい音や光を避けて、暗い部屋でじっとしていたくなります。

 

脳梗塞の原因となることも


 頭痛を主訴に病院の神経内科外来に来る患者さんは、ほとんどが「片頭痛」の人たちです。話を聞くと、「高校生くらいから、月に1回くらいの頭痛があった。近所のお医者さんに行ったこともあったけど、風邪と言われた。春先に勤務異動になったら、激しい頭痛が続いて、市販薬を毎日飲んでいます」などと訴えます。頭痛は、生理と同じように日常的なものとなっているけれど、とても辛いと感じている人が多いのです。

 片頭痛のある人は約1000万人いると言われ、日常生活に大きな支障をきたしていることが多く、経済損失は1000億円以上にもなるとの報告もあります。また、片頭痛を持っている人は、脳梗塞に約1.3倍罹患しやすいと言われていて、決してあなどれないのです。片頭痛発作を繰り返していると、脳の血管が傷んで、脳の動脈が裂けたり(動脈解離)、狭くなったり(血管攣縮)して、脳梗塞を発症することもあります。コロナのワクチン接種後に、いつもより激しい頭痛に襲われて、脳梗塞になった患者さんも経験しました。


 

進歩した片頭痛の治療法

 片頭痛は、昔からある病気ですが、治療法はありませんでした。古くは平安時代末期の後白河法皇が片頭痛であったと言われています。京都の蓮華王院本堂三十三間堂は、ご自身の頭痛を治めるために、平清盛に命じて建立させたそうです。後白河法皇の頭痛のタネは、宿敵清盛だったのですから、さぞかし頭痛が良くなることはなかったでしょう(私見)。


 近年、片頭痛の治療は画期的に進歩しました。治療には、発作時の痛みを抑える治療と、日常的な頭痛を予防する治療にわけられます。片頭痛だけに特別に効くトリプタンとよばれる鎮痛剤が有効です。ただし、鎮痛剤を飲みすぎていると、脳がどんどん鎮痛剤を欲しがって、頭痛が悪化することがあります。これを薬物乱用頭痛と言います。頭痛の回数が多い人は、予防する薬を使うことをお勧めします。予防の内服薬はたくさんありますが、効果の少ない人には、月に1回注射する予防薬(抗CGRP抗体製剤)も使えるようになりました。


ちなみに、私の病院で毎日忙しく働いていた同僚が、片頭痛で苦しんでいたので、三十三間堂の頭痛のお守りを渡したら、とても喜んで、「頭痛が、とても良くなりました」と言ってくれました(写真)。日ごろのストレスからの解放や共感してくれる人がいるという環境も大切だと思います。


 頭痛は、「つらいけど、病気じゃないから仕方がない」とあきらめている人は大勢いるのではないでしょうか。頭痛をコントロールすることで、日常生活の質は大きく改善して、怖い合併症のリスクも減ります。健康寿命には大切なことだと思います。是非、お近くの神経内科(脳神経内科)や脳外科のクリニックを訪ねてみてください。

                                    (2023..11.7 掲載)













三十三間堂のお守りの中で、最古の『頭痛除御守』。

 

ふじた・のぶや
新潟県立新潟高校卒、1984年鳥取大学医学部卒、1990年新潟大学大学院医学研究科(神経内科)修了。日本学術振興会研究員、米国ノースカロライナ州立大学研究員を経て、長岡赤十字病院勤務。2016年から同病院副院長。医療安全推進室長と教育研修推進室長を務め、新潟県の初期研修医の確保にも尽力している。

次回は、藤田先生が佐渡総合病院の研修医時代に医者のいろはを教えてもらい、長岡赤十字病院でも一緒にお仕事をしたという、長岡市医師会長の草間昭夫先生を予定しています。


協力:株式会社メディレボ










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