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   女性医学と私

  • 15 時間前
  • 読了時間: 5分

(2026/4/8)

 私は今年3月までの22年間、新潟市民病院産婦人科に勤務し、主に周産期医療(妊娠・出産に関わる医療)に携わりました。同院の総合周産期母子医療センターでは、母体と胎児の救命のために、医師・助産師・看護師など多職種が連携し、24時間体制でチーム医療を行っています。4月1日からは医療法人恒仁会・新潟南病院に勤務しています。

 

    医療法人恒仁会新潟南病院 

       女性診療科・婦人科部長

                                 倉林 工

                                  

  

 

   妊娠に伴う変化を注視


  妊娠中に高血圧や蛋白(たんぱく)尿を発症する妊娠高血圧症候群(HDP)は、重症化すると母児の生命に関わることがあります。適切な時期に帝王切開などで妊娠が終わると、多くの場合症状は改善します。しかし、HDPだった女性は、将来的に高血圧症のリスクが約3倍、脂質異常症が約1.5倍に上昇すると言われています。また、妊娠糖尿病だった女性は、将来2型糖尿病になるリスクが約7倍に高まります。さらに、小さく早産で生まれた女児は、将来HDPを発症しやすいことも分かってきました。  

 妊娠・出産時の異常は、その後の健康に影響するため、分娩(ぶんべん)後も継続した健康管理が重要です。産婦人科医は出産だけでなく、将来の生活習慣病予防も視野に入れ、地域の医療機関と連携しながら長期的に関わっていく必要があります。

 


   「女性医学」は一生の問題


 産婦人科の専門分野には、妊娠・分娩を担う「周産期学」、女性性器の腫瘍(しゅよう)などを担う「婦人科腫瘍学」、不妊症の治療などを行う「生殖内分泌(ぶんぴつ)学」がありますが、これに加えて重要なのが「女性医学(Women’s Health)」です。女性医学では、主にエストロゲン(卵胞ホルモン)の変動に関連する疾患を、予防医学の観点から包括的に扱います。対象の疾患は、月経随伴症(月経に伴う諸症状)、更年期障害、骨粗鬆(こつそしょう)症や骨量減少、肥満や痩(や)せ、生活習慣病の初期段階(高血圧、脂質異常症)など多岐にわたります。思春期から老年期まで、女性の生涯にわたる健康管理を担う分野です。日本では女性の健康課題による経済損失が年間3.4兆円と試算されており、その中でも更年期症状(1.9兆円)や月経随伴症(0.6兆円)が大きな割合を占めています。

  

   「痩せ」も健康の「敵」


 女性の体格も重要です。肥満は生活習慣病のリスク因子として知られていますが、一方で「痩せ」も見過ごせません。BMI18.5未満の痩せは、20歳代女性の約20%にみられます。2025年には「女性低体重・低栄養症候群(FUS)」という概念が提唱され、低体重・低栄養を背景とした多様な健康障害への注意が喚起されています。痩せている女性では、栄養不足に加え、月経不順によりエストロゲン分泌が低下、若年期から骨密度が低下し、将来の骨粗鬆症リスクが高まります。長期間、痩せている女性では骨粗鬆症の発症リスクが約1.6倍に増加しますが、若い頃の痩せもその後の適正体重の改善によりリスク上昇は認められません。また、産後の骨密度検査では、痩せの女性の約70%に骨量減少または骨粗鬆症が認められ、早期のスクリーニングが重要です。


   9月新潟で骨粗鬆症学会 


今年9月11日から13日まで、新潟市の朱鷺メッセで、第28回日本骨粗鬆症学会を開催します。 https://shinsen-mc.co.jp/jos28/

新潟リハビリテーション病院院長の山本智章先生と私が今回の学術集会の会長を務めます。ともに新潟大学医学部を1985(昭和60)年に卒業し、山本先生は整形老年病学の分野で、私は女性医学の分野で、骨粗鬆症の研究・診療に長く関わってきました。その経験を基に「骨粗鬆症診療の多面的アプローチ ─女性医学と整形老年病学─」をテーマに、診療科を超え多職種がそれぞれの専門性を高めながら相互理解と学びの場となるようプログラムを企画中です。市民公開講座も予定しています。ぜひ骨の健康に興味を持つ機会になれば幸いです。

 勤務を始めた新潟南病院では、診療科名をこれまでの「婦人科」から「女性診療科・婦人科」に変更していただきました。これまでの婦人科疾患に加え、妊娠・出産後の異常のフォロー、月経異常や更年期症状、子宮がん検診、骨密度検査などを気軽に相談できる場として、女性に寄り添う医療を提供していきます。地域医療との連携を大切にし、女性の健康増進に貢献します。また女性診療科に夢を持った医師や医療スタッフにとって働きやすい診療科にすることも課題です。私自身の医療者としてのゴール地点をもう少し先に伸ばして、これらの目標達成のために一歩一歩ゆっくりと走り続けていきたいと思います。

  (2026..4.8掲載)


2023年10月の新潟シティマラソンの40㌔地点
2023年10月の新潟シティマラソンの40㌔地点

 【略暦】 くらばやし たくみ  長野県佐久市出身。1985年新潟大学医学部卒業。同大学産婦人科学教室に入局。95年に文部省在外研究員としてオーストラリア(シドニー)のGarvan研究所の骨代謝グループに留学。2000年、新潟大学医学部附属病院助教授。04年、新潟市民病院産科部長、11年、同院地域医療部長兼務(15年から患者総合支援センター長に変更)。26年、新潟南病院女性診療科・婦人科部長。日本女性医学学会副理事長、日本骨粗鬆症学会理事。専門は女性医学、骨代謝、生殖内分泌。

 次回は新潟手の外科研究所 理事長 坪川直人先生です。長谷川隆志先生、大森豪先生、山本智章先生、佐伯敬子先生と同じく新潟大学医学部同期です。学生の頃はラクビー部で連日泥まみれでグランドを走り回っていました。現在は日本の手の外科手術におけるトップクラスの実績を持ち、かつ病院運営にも活躍中です。

協力:株式会社メディレボ









 
 
 

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