ちょっと気になるあんな病気、こんな症状ー。
明日野家の面々が県内の医師を訪ね、病気の特徴や治療、予防のポイントについてインタビューしてきました。明日からの健活にきっと役立つはず。
肺へ食物、水分 口の衰え原因 菌が増殖
高齢者がかかる肺炎の多くは「誤嚥(ごえん)性肺炎」で、救急搬送される方が増えていると聞きます。どんな病気なのでしょうか。症状や予防方法について、新潟医療センター呼吸器内科の栗山英之副院長に聞きました。(明日野寿一)
くりやま・ひでゆき 新潟大学医学部卒、同大学院医学研究科博士課程修了。同大学病院を始め、済生会新潟第二病院、新潟市民病院、県立妙高病院、県立小出病院、米国クリーブランドクリニック、長岡赤十字病院を経て、2015年より新潟医療センターに勤務、2023年より現職。医学博士、日本呼吸器学会専門医・指導医。
「誤嚥性肺炎」とは、どんな病気なのかな? 高齢者がなりやすいと聞きましたが?
食べ物と空気の通り道は、のど (咽頭)で交差します。通常、口に入った食べ物は歯や舌を使って丸められ(食塊)、咽頭に運ばれ、食道を通って胃へ送られます(嚥下=えんげ)。唾液などの水分も同様です。それが誤って気管を通り、肺に入り込むことを「誤嚥」と言います。その際、口の中などの菌が一緒に入り、肺の一番奥にある肺胞で増殖、炎症を起こし、誤嚥性肺炎を発症します。
誤嚥しても、必ず誤嚥性肺炎になるわけではありません。せきをしたり、むせたりして異物を体外に出しているからです。気管から肺へ続く気道は、粘液とほうきの穂のような繊毛で覆われていて、菌やウイルスはこの粘液にとらえられ、繊毛運動で追い出されます。
しかし、加齢とともに繊毛の動きが落ち、せきも出にくくなるため、高齢者は誤嚥しやすくなります。また、就寝中に唾液などが気管に流れ、気付かないうちに誤嚥している不顕性誤嚥も認められ、「隠れ誤嚥」とも呼ばれています。
誤嚥の原因としては、脳梗塞などの脳血管障害、認知症やパーキンソン病、のどの病気、慢性閉塞性肺疾患、胃食道逆流症なども挙げられます。
どんな症状が出たら受診すればいいのかねぇ? 治療方法を教えていただけませんか。
一般に肺炎は、せきやたん、発熱、呼吸困難などの症状が伴います。ところが、誤嚥性肺炎は高齢患者が多いため、せき反射が低下し、せきが出にくい、熱をつくる機能が落ちているので発熱しないなど、典型的な症状が認められない場合があります。家族や施設で介護している人が「何か元気がない」「食欲が落ちている」など、普段と様子が違うことに気付き、受診につながっています。患者さんが認知症の場合、高熱でも平然としていたり、症状をうまく伝えられなかったりして、来院時には重症化していることもあります。周囲の人が「おかしい」と感じた際には、かかりつけ医に相談し、受診するか、必要に応じて救急車を要請してください。
診察、血液や尿、たんの検査、レントゲンやCT (コンピュータ断層画像)検査などを行い、診断します。治療は、他の肺炎と同様に抗菌薬治療が行われます。
誤嚥性肺炎は繰り返すことが多いため、当院では歯科医、歯科衛生士、言語聴覚士、管理栄養士などによる摂食・嚥下リハビリテーションにつなげています。歯、舌、口、のどの診察、嚥下内視鏡検査や、食べ物に造影剤を混ぜて嚥下状態を見る嚥下造影検査などにより、ペースト食など、各自に合った食形態や食事の姿勢の提案、虫歯治療などの口腔ケアなどを行います。
予防方法はあるのですか? 普段からどんなこと気を付ければいいのかな?
肺炎球菌ワクチンの接種を推奨しています。肺炎球菌は誤嚥性肺炎の原因菌の一種です。
インフルエンザワクチンの接種も有効です。インフルエンザウイルスに感染すると気管が損傷を受け、別の菌が侵入しやすくなり、二次的に誤嚥性肺炎を発症することがあります。
誤嚥性肺炎は高齢者の病気です。日本は世界一の超高齢社会を迎え、人生100年時代と言われています。しかし、元気に過ごせる健康寿命と平均寿命に約10年の隔たりがあり、この間が要介護期間に相当し、誤嚥性肺炎を発症しやすい時期とも言えます。したがって、健康寿命を延ばすことが重要です。健康と要介護の中間状態は「フレイル(衰え)」と呼ばれ、早めに気づき、適切に対応することにより、健康な状態に戻る可能性があります。特に、口は話す、食べる、表情をつくる、呼吸するなどの重要な働きを担っています。口の機能の低下はオーラルフレイル (口の衰え)と呼ばれ、誤嚥性肺炎に関わるだけでなく、栄養状態が悪化し、全身のフレイル (衰え) にもつながります。口の健康「健口(けんこう)」に気を配りましょう。
※オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメントを参考にしています
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