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にいがた市民大学2021認知症とともに〜安心して暮らせる社会づくり ~Vol.7 農の福祉力

 高齢者らが農業や農的な活動に取り組む「農福連携」が注目されている。

一般社団法人JA共済総合研究所主席研究員の濱田健司さんが、取り組みを進める意義や全国の実践事例を紹介した。

 

一般社団法人JA共済総合研究所主席研究員

濱田 健司さん

はまだ・けんじ 1969年、東京生まれ。東京農大大学院を修了し、2002年からJA共済総合研究所。農林水産省農林水産政策研究所客員研究員、日本農福連携協会顧問なども務める。博士(農業経済学)。





 



 

活動を通じて役割引き出す 

 「農の福祉力」―。そう言った場合の「農」は農業活動、つまり農業と農的活動を指す。農的な環境にいるだけで癒やされ、農作業は身体機能を高める。農産物の生産はリハビリにもレクリエーションにもなる。食べることも幸せな気持ちにする。

 農業活動による障害者の変化についての調査がある。精神障害の状況が「改善した」とする割合は26%。身体障害でも13%に上った。農作業が介護度の改善や医療費削減につながることを示している。

 就労訓練や地域住民との交流の広がり、コミュニケーションの向上といった効果も指摘される。高齢者も同様で、農業では自分で育て、収穫し、販売するということを通じて、自分が行ったことが成果として見えるのは大きい。





広がる連携の可能性 

 農福連携とは、狭義では障害者らが農業生産に従事するという意味だ。背景には、専業等で働く農業者が10年で約70万人減るなど農業の担い手が高齢化し、人手不足が深刻化していることがある。一方で障害者らは増加。働きたくても場がなかったり、賃金で恵まれなかったりする人は少なくない。農業、福祉それぞれ単独での課題解決が困難な中で連携が生まれた。

 全国では農家や農業法人が繁忙期の仕事を障害者の事業所に委託する取り組みが広がっている。例えば、島根県ではシャインマスカットの選別を障害者が担う取り組みがある。

 ただ、連携の可能性は障害者だけではない。対象は要介護認定高齢者や生活困窮者にも広げられる。「農福」だけでなく「林福」(林業)や「水福」(水産業)もできるだろう。

 高齢者の農福連携についてはさまざまな類型がある=図参照=。これから注目されるのは「ゆるやか農業」だ。農産物を作り、対価を得ることもできるが、健康づくりや社会参加にもなるというもの。農業をリタイアした人や農業経験のない定年退職者の農業、介護予防型の農的活動などが挙げられる。





政府も取り組み推進

 認知症の分野では農福連携の目的が、治療やレクリエーションから「役割づくり」になることが期待される。秋田県湯沢市のデイサービスセンターでは認知症の人がイモの収穫などの畑仕事をし、畑の看板を作る。料理も担う。奈良県では若年性認知症の人が耕作放棄地で野菜を作っている。農福連携は政府も推進しており、農林水産省も厚生労働省も対象や分野を広げようとしている。

 認知症の人は私たちにこれからの生き方を教えてくれる存在だ。誰もが共に笑顔で生きられるよう、相手を尊重し合うこと、いのちの意味を教えてくれる。認知症の人のさまざまな可能性や役割を引き出すきっかけを農福連携が担ってほしい。徳島県では医師が診療所を開設し、近隣の農地に患者やデイサービスの利用者が来られるようにした事例がある。新潟市でも医療機関やデイサービスの車が農園まで行き、農作業することはできる。近くの農地を借りて月1回を過ごすといった取り組みができるのではないだろうか。認知症の人もレクやリハビリ、治療を受けるだけでなく、生きがいづくりや社会参加を通して地域を笑顔に、支える存在になれるようにしてほしい。






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